挨拶
お久しぶりです。
ブログを書く、言葉を操る行為、から若干逃げていたと言えるでしょう。
建築「学」界隈の方々はツイッターを使用し、字数制限のある中よく言葉を紡ぎ出せるなと、日々感心しております。もちろん日々の設計行為も行っているわけですから、本当にすごい熱量だなと思います。
僕は完全にインスタグラムの使い手なので、ツイッターもFacebookもたまにしか更新しません。なぜインスタグラムかは話すととても長くなると思うので今回は短めに言っておきます。
「領域外の人間と知り合うことができるから」
これが全てでしょう。アカウントは4つ持っています。
1.オシャレのトップ界にいる方々と繋がるアカウント。(僕自身の外見も一定以上であることが必要です。)今までに20人弱お会いしました。
2.カメラで撮った人間の写真をあげるアカウント。(ポートレート作品といってもいいレベルにある必要があります。)
3.建築に関するインプットアウトプットをひたすらに更新するマニアックアカウント。(意外と建築学生がフォローしてくれてたりして、大学院が同じ子とかもいます。)
4.最近活動しているスタジオの作品を載せるアカウント。(優秀な友人がいることが必要です。)
とまあ、インスタグラム厨な僕ですが、今日更新しようと思ったのは他でもない最近の動向をまとめておこうと思ったからです。自分が顧客ありの実作を世の中に出し始めたことによって見えてきた世界があるような気がするので、言葉にしてまとめておこうと思うのです。
クライアントがいる設計の楽しさは2018年春、ベビーベッドを設計製作した際に知りましたが、原寸大の実物を人間が使用する点において、未熟なことがたくさんありました。その点、解像度が徐々に上がりつつある気がしているのです。できればあと一年の間に建築に近づきたいのですが。。。
「近づく」という表現が正しいかどうか、自分にもまだ確証はありませんが、僕が建築家を志す意味も含んでいます。
「身体からの距離」という視座において、順番に服、道具、家具、建築、都市、、。このような並び順になると思います。どの分野も「モノづくり」という共通項はありますが、結果が出るまでのスパンが長いけど、生きている間に実感でき、将来作者よりも長く生き続けるモノは建築なのではないかと思っているのです。もちろん服や家具も大切に使用してあげることで生き続けますが、建築にはかないません。別に時間軸評価だけで良し悪しを決めている訳ではありませんが、一番挑戦し甲斐のある難しい分野であると、自分は感じています。設計者として世に認められる信頼された存在になるための国家資格は受験資格すら厳しいものです。
建築が総合芸術であり、人間を唯一包み込める空間芸術、時間芸術であることに自分は惹かれているのでしょう。
建築に近づくために
さて、建築に近づくために。
僕は最近家具作りをしています。授業で扱うような模型やCGパース製作ではない、1分の1での設計。0から1、0から∞の可能性を秘めた設計を。
家具なら資格もいりませんし、デザイン料さえもらわなければ万が一その家具で怪我をした方がでても責任は問われません。こういう言い方をすると、ひどいやつに思われると思いますが、実際大事なところです。保障関係のことに詳しい会社に電話して、学生であることと、ビジネスではないことを伝えると、安心していいと。
「デザインでお金を稼ぐ」のではなく「デザインで世の中の役に立つ」ことが僕の設計行為の初心なので、設計料は取らない予定でした。(予定は変わるものですよね笑)
プロジェクトについて
春休み、優秀な友人Rと2人で鎌倉に焦点をあてるところから始まりました。
人が集まるポテンシャルがあり、使ってもらえる可能性の高い場所で、ある程度の民度があり、格式の高くない敷地として選定しました。写真を撮る行為が蔓延するこの世界で、少しでも写ることができれば次のデザインの仕事に繋がることも目論みながら。
営業をかけさせていただき、2つのお店が欲しいものがあることまで聞き出すことができました。詳しい設計時間まで覚えていませんが、1/5スケールの模型をつくり、やる気があることを示します。なんとなくイメージを膨らませながら、あーでもないこーでもない、もっとこうなら、と話が進みます。そこからブラッシュアップさせ、打ち合わせ資料を全力で作ります。文章ばかりで、すみません。設計の過程としてお見せしますね。
これらはパン屋さんにテーブルを設計した最終プレゼン資料です。フォトショップもまだまだですし、レンダリングも全然です。でもこれからの「伝える資料作り」の勉強としてやってみました。
これらはカフェのチラシ挿しの資料です。
図面も1/1で書くことなんて滅多にありませんからね。。
何よりホームセンターに売っているエンドユーザー向けの既製品から選択して設計していることもとても勉強になります。ディテールに凝ることが勝手な設計者の楽しみですね笑
ここからは設計で考えていたことをお話しします。
順番にテーブルの方から行きますね。
設計内容〈よねこベーカリー〉
パンを立って食べるスペースが店内にあったら。。という希望を伝えてくれたパン屋のMさん。昭和レトロな雰囲気がお好きということを会話、お店の既存状況から汲み取りました。正直お世辞にも広いとは言えない店内。狭い面積という制約に対してどう答えるかが一番の肝でした。
平面図を起こし、最大限に活かせる面積を割り出します。3つ、同じサイズのテーブルを置くことで、通常時はお客さんが立って食べる際にもたれかかったり、パンを置くスペースとして使っていただき、イベント時などは持ち運んで組み合わせを変え、自由に使ってもらえるようにしました。また立って食べる際、荷物を置く場所があるといいと考え、今回の設計ではテーブル自身の構造となる荷物置きを提案しました。
つまり、面積の制約から生まれた短手の構造的制約をテーブルの重心を下げることで解決したのです。
「立って」利用する行為と腰壁の切り替わり、ガラスのショーケースの高さとのバランスを加味し、天板の高さは919mmに設定してあります。柱構造では天板からかかる重力を地面に伝えにくく、また3つ並べた際の美観的問題から、面剛性を持った柱を採用しました。柱というより、壁という表現の方がいいでしょうか。その壁は地面に効率よく力を伝え、水平力により多くの摩擦力で対応できるよう2枚の板を120度で接合して構成しました。そのおかげで天板の下に少しスペースが生まれ、女性でも簡単に持ち運べる形状になりました。
最後に色についてです。
天板にはクリアニスのみ塗装し、それ以外の脚部分にはダークオークのステインを塗装してあります。
実はこのテーブル、通常のテーブルとは上下逆の構造をしているんです。通常のテーブルは天板と脚が剛に接合され、脚の地面につく部分は自由端になっています。しかしこのテーブルは荷物置きと脚を剛に接合し、天板はピン接合なのです。実際は角度がついた脚に接合しているので回転はしないのですが、その構造原理を色で示しているというわけです。
それだけではなく、レトロな雰囲気に合うよう、腰壁の色に呼応するよう、下を濃く、上を薄くしているという2重の意味を持っています。こんなことはお客様に話しても仕方がないことなので、話しませんが。。わかってもらえるとより楽しいかなという感じです。
今回は同時に椅子の提案もしています。
もともとレトロな赤いファブリックの椅子が2脚置いてあったのですが、テーブルの高さからして座りにくかもしれないと、IKEAのスツールを提案しました。費用もあまりかけたくないので、安いものを選択しましたが、アルテックから出ているアアルトのスツール60が元ネタであることや、洗練されたデザインであることを説明し、提案を了承していただきました。バーチ材の色と天板の色も同じ色で、空間に馴染む提案になったかなと思います。
ということで完成した写真を何枚かご覧ください。
実は着物の女性、撮影に協力していただきました。
人が使っているところを竣工写真として撮影したい、とお声かけさせてもらい撮らせていただきました。自然体でおばあちゃんと会話しながらパンを食べてくださいました。
感謝しています。このブログを見ることはないかもしれませんが、本当にありがとうございました。
もう少しこだわりを。
今回はSPF材を使用しています。規格がかなり設計の数値に近く、ワンバイ材とツーバイ材を選択し、コストを抑えつつという感じです。集成材だと割付も簡単ですし、ありふれた表情になってしまいます。建築の枠組壁構法で使用する材料なので、構造的な心配もほとんどいりません。
数値に関してですが、立面図を見ていただくと、真ん中の空洞部分が正方形になっているのが見て取れると思います。各寸法が決まってきた後に、数値の調整を行いました。これは最後の一手という感じです。比例関係にまで踏み込めたというのはとてもいい勉強になったと思います。古代ギリシャ、ルネサンス、近代と、数字への執拗なこだわりは歴史的にも見て取れます。美しいものは構造と機能を備えた上に少しばかりの調整が必ずあるものです。というのもこの設計をして感じたことですね。
設計の際に構造と機能は絶対に切り離してはいけないし、それが外観に必ず現れるはずだと思います。スタディの途中ででてきた形状がいかに合理的な形態をしているか、否かは振り返ってみるとよく理解できました。今回は内外という見方はあまりしないので、そこについては後で触れたいと思いますが、構造合理性というのは心に留めて置くべきだなと、これからの設計の指針となることを発見できた気がします。
設計内容〈cafe kaeru〉
次にカフェのチラシ挿しです。
初めは本が多くてどうにか整理したいとカフェのご夫婦がおっしゃっていたので、本棚と椅子を兼ねた模型を持って行きました。しかし場所がないなぁと。やる気があることは伝わり、次はポストカードを置く場所が欲しいと言ってくださいました。
これ、結構カフェからするとあるあるなのかもしれませんね。
近所のお店やイベント関係のチラシ、名刺、フライヤーをカフェに置きたいという方がたくさんいるみたいで、カフェとしては是非置いて、色々な方に周知できるといいというスタンスではあるものの、なんせ置く場所がないと。。それでいつもお断りするそうなんです。
そこで僕たちは、といってもこれは完全にRのアイデアでした笑
カフェの外装である下見板張りにインスピレーションを受け、その逆の上見板張りでチラシを挟むというものです。下見板張りは雨を室内に入れないための外装ですが、富士山では雨は下から降るそうなのです。それで上見板張りが構法として合理性を持ってデザインされ得るというわけです。というのは余談でして(Rの卒業設計の一部でした。)
レジのカウンター板がお客さん側に11cmほど飛び出している下のスペースに作って欲しいと依頼を受け、省スペースながら、多数のチラシを掲示できるよう設計しました。
通路に干渉しないよう、幅は最低限設けています。
名刺、ポストカード、A4サイズのフライヤーの3サイズに対応した大きさのスペースを設け、突っ張り棒の原理でカウンターの上に固定しています。
板付ナットと長尺ナット、全ネジ、鬼目ナットを組み合わせ、逃げをとった調整機能を作り、金属の粗々しさをそのままに、表現しました。
後ろの横目地のラインに合うように線の位置を調整し、色もできるだけ空間に溶け込むように塗装しました。
垂木を構造フレームに採用し、ラワン合板4mm厚を板張りに使用しています。コストをできるだけ落とすとなると最適解だったとは思いますが、ラワンの弱さには驚きました。シナ合板の方が少し費用はかかるものの、仕上がりは綺麗にいったかなと思います。材料の作られ方、加工性など、もっと理解しなければいけないことはたくさんありますね。。
断面でみると、左右対称どころか、板張りのほうに重心があるので、自立はしません。うまく固定できるか心配でしたが、突っ張りのディテールに凝ったおかげか、ちゃんと固定されました。
最終的にもとから、そこにあったかのような雰囲気で、既存の空間に溶け込んでくれました。
これもまた大きな学びです。
すでにある状況に新たなものを加えた時に空間に与えるモノの力みたいなアトモスフィアはなかなか感じることができません。買ってきたものを合わせるのは日常茶飯事ですが、作るものがしっかり調和してくれるのか、不安でしょうがありません。
これについてはもう一つのプロジェクトで詳しく話したいのでまずは竣工写真をご覧ください。
という2つのプロジェクト、実作を設計製作しました。
で終わりではありません。
この2つの設計は材料費のみいただき製作しています。
なので設計料も、製作料もいただいていません。
ここからは、もう一つの個人プロジェクトから、これから天職として楽しんで設計しながら生きていけるかの一つの観点を与えてくださったクライアントとの出会いをご紹介しつつ、自分の考えの移り変わりを記述していければと思います。
予定は変わります。そうつまり、設計料を出すと言ってくださったんです。
まあまずは設計の内容からですね。
設計内容〈CAPRICE 辻堂〉
大学4年の頃から通い始めたレストランがあります。始めは男のイキリみたいなもんで、バーカウンターが併設のイタリアンだったので一人でお酒でも飲みに行こうと思ったんです。笑 そうしたらカウンターで一人の僕に「メガネどこのですか」とスタッフさんが声をかけてくれたんです。これがなかったら通わなかったでしょうね笑
その当時1940年代の英国製のセル巻き眼鏡をしていた僕は自分に興味を示してくれるスタッフ?!とただのリップサービスに乗せられ、、笑
料理もお酒も美味しく、スタッフさんもいい方ばかりで顔も覚えてもらえ、通うようになりました。友人を連れて、家族を連れていくようになりました。
久々に一人で飲みに行き、上の2つの実作のことを話すと、「じゃあうちにもメニュー箱つくってよ」とシェフ。正直なところこの声かけを下さることは予想していたというか、狙いでもあったわけですが、ありがたいことに正式に依頼をいただきました。
現在のメニュー箱がとても使いづらく、新しく作りたいけどそんな時間もないということで大まかな希望を言っていただきました。お店の雰囲気に合うこと。縦にファイル型のメニューを収納できること。これは要求にすぎないので、こちらからは要件を考慮し提案しました。
メニュー箱内に仕切りを作り、ランチ、ディナー、ドリンクごとに分類できるように。内的要求と外的要求を同時に満たす最小限の部材で構成できるように。
始めはレーザーカッターによる施工性の容易さを持ったものを提案しましたが、なぜ釘を使わないことにこだわるのかという施主の問いに対し施工性の正確さとしか答えられなかった僕は大事なことを理解できていませんでした。それが何かは、それを理解できた自分の製作した物をみていただいてから述べようと思います。
お店の外装と内装両方に使用しているヒノキの90*15材の余った材をできるだけ消費せず製作して欲しいということで、最小限部材消費による、お店の雰囲気に合ったメニューボックスをご覧ください。
では先ほど自分が設計する際に心がけたことを。
はじめのレーザーの提案の際にシェフが夜中12時ごろまで熱くお店のこと、物事の見方を話してくださったんです。
「何事も第一印象が大事」と。
服装に関して知識をつけて、第一印象を大切にしていた自分なのに全く忘れてしまっていました。
お店の音響も、フローリングシートも、ソファ席の背もたれの板も、カウンターの幅、高さ、スケール、椅子との取り合い、照明の取り付けも。すべてにこだわって自分の手で「おしゃれ」に仕上げたシェフだからこそ、幅広い年齢層に愛され、カジュアルさも持ち合わせた上品な空間を作ったシェフだからこそわかることを教えてくださいました。
まず「普通」という土台にのること。
「何も感じない」状態のアトモスフィアになるものがつくれるようにならないといけない。そのためには素材を知り、語りかけ、モノがどうありたいかを考える。そんなことが必要だと思います。それが「おしゃれ」であれば、心地いい空間に繋がっていくのではないでしょうか。
そこで次の提案では縦羽目板で構成された垂直線を外面に持ってくる設計をしました。これがほぼ完成形ですが、材の勝ち負けはもっとスタディする必要がありました。2つ並べた際に水平に連なる壁になるよう、垂直性を強調するために鉛直材を勝たせたりと、勝ち負けを決定しました。
外的要求からは垂直を構築、内的要求からは仕切りとメニューに対し垂直方向の板材。
内的要求を満たす材が構造の中心となり、外の鉛直材が目地を持って構成されています。一方で全ての材料が構造を持ち、ゴシック建築と同じく無駄な場所はほとんどない設計になりました。
これこそまさに構造、機能、美的要素を兼ね備えた設計です。確証はありませんが、形態に違和感はないと思います。「普通」になったと思います。
しかしながら図面で想定していた施工順序とは異なる順序で施工したため、まだまだだなと反省もしております。また塗装と組み立ての順番も違うような気がしています。ソリもある材料だったので、やする工程があり、接合してから塗装するという順番になってしまいました。本当ならヤスって塗装して、接合のはずですよね、、。
また釘にもこだわりました。真鍮、銅、ステンレスとサンプルを作成し、施主に見せ、ステンレスの丸頭に決定しました。釘の摩擦力はやはり目を見張るものがあり、修復は難しいですが、外観は木材に対していいアクセントになるのでこの設計を通し、釘も捨てたものではないなと感じました。ただ使用者の手に触れるところにはもっと気を配る必要があるなという感じです。質感は建築にも通じるところがあるのでいい勉強です。
ちなみに今回の数値の調整では驚くべき事実があります。
というのも長さが246mm、285mmの材だけで構成することができたのです。
つまり生産性において効率の良い設計になりました。
セミラティス的設計プロセスでスタディを行うことが結果いい方向に動いてくれたのだと思います。もちろんプロポーションにも影響の出ることですし、設計行為の振り返りがいずれできるといいなと思います。
同じ材、同じ色で塗装したことで雰囲気は間違いなく合うわけですが、むしろ空間が少しのっぺりしてしまい、「何かアクセントが欲しくなった」というコメントをいただき、なるほど提案の時点で「合わせる」と「合わせない」を持ってくるべきだと痛感しました。雰囲気に関してリテラシーのある方だと、次に繋がるコメントがいただけて嬉しい限りです。
思考の変化。仕事にするには。
さて大事な設計料の話です。
僕はもらうつもりはさらさらなかったんです。
将来の自分への投資としか思っていないので。
でもこの先設計を仕事にしてご飯を食べていくには、お金をもらわないと話にならないと。独立するならなおさら。
「このメニュー箱に自分で値段をつけて」とシェフから言われてびっくりです。
何で値段が決まるか。
どのくらい価値があるものをつくれたのか。
「情報」
シェフからの教えです。
文章的には歯切れが悪いですが、このくらいにしておきます。
これからの課題になりそうです。
現在家具に関しては学生とは思えない知識を持っていると自負しておりますが、家具屋でバイトしている最大のメリットは値付けを間近で見れるということです。売られている値段はもちろん、仕入れ値もこれから覚えるつもりです。
市場価値の高いものからいろいろなディテールを吸収し、自分の作ったものに値段がつくように設計していければと思いつつ。。。
「デザインでお金を稼ぐ」のではなく「デザインで世の中の役に立つ」
初心を忘れずに、お金のことももっと考えて生きていこうと感じました。
ということで、最近の動向、思考の変化について言葉にしてみました。
120%で思考することを続けたらきっと何か見えてくる。
そう信じて突き進みます。
それでは。