吉田五十八設計 旧猪股邸を見学してきました。

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お久しぶりです。

久しぶりのブログですネ。

大して忙しくしているわけでもなく、ただ知的欲求と承認欲求を満たすことに没頭している日々でして、建築を言語にするという行為から離れてしまっていましたネ。どうしてもインスタグラムやフェイスブックが手軽に使えてしまうもので、コンテクストなくとも、誰に見られているとかも気にせず投稿できてしまうものですから。

 

吉田五十八の設計物が少しづつ理解できるようになってきたので、先日訪問した旧猪股邸、猪股庭園について記事にしようかなと思います。

 

といっても空間構成や建築思想はそこまで理解しているわけでもなく、ただ自分が見たものである写真(つまり何かを感じたり、興味を持った部分に関しては写真に残すようにしている)とともに、少しですが文を添え、つらつらと支離滅裂に記していこうかと思う次第です。

 

はい。

さっそく行きましょうかネ。

 

端正な佇まい 

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表門をくぐると、緑に囲まれた低層の立面を持ち黄色と茶色で構成された一軒の家が控えめな顔を覗かせます。

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控えめと感じさせる要素であった入り口。豪勢な扉が迎えてくれるわけでもなく、スタイリッシュな建具が備え付けているわけでもありません。ただ木材を45度に加工整形することにより、額縁となる見付け部分を最小限にしているのです。後ほどお見せします。茶室に向かう動線となる一間の石畳と軒の出、およそ7尺ほどの軒高が出迎えてくれます。正面から低く見えるのはその軒高のおかげなのでしょうね。平面を45度に振ることによる視線の操作が垣間見えます。写っているのは友人です。

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こちらは雨樋を支える金物の画像。支持していることを明示しながら、その形態に日本の表意文字を思わせます。

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雨粒はゆっくりと石の群衆と出会います。そこで見られる自然の調和はライトと似た手法です。ただライトは樋を使いませんが。五十八の場合は、「雨垂れ石を穿つ」と言いたげな配置です。ライトの場合はそこを池にするような配置になってたりします。

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図面で書いた線をそのまま実物に写す技術も見逃せません。左は石畳、右は先ほど触れた面取りの効果を示す写真です。そして扉が引き込み戸ということもこの写真でわかりますね。面取りをすることで見付けがないように感じる。些細なことですが、実はこの技、ライトもやってます。笑 

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これが寄りの写真。これ、扉閉じた時も柔らかい印象になるんですよね。

 

水平連窓?

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お次はお手洗い。極限まで見込みをなくすことで鏡に外景が反射し、まるで奥まで庭園が広がっているかのように感じます。元々の開口部のプロポーションのおかげでまるで水平連窓みたいですね。これトイレです。笑

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洗面台は薄い板。アクリル板でしょうか、素材については何も知識がないので触ったからわかる能力備わっておりません。これの取り付け方に注目しました。作り付けで木に嵌め込まれています。支持材がないことで好きな位置に取り付けることができます。アイリーングレイとかは支持材をアングル材でデザインしたりしますが、できれば排除したかったであろう要素。五十八は見事にそれを成し得ます。

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鏡に仕込まれている照明。鏡の裏側の膜と銀をトリミングし、壁に照明を備え付け、紙ような素材の(実際に和紙かもしれません。)塩ビ板を貼り、面はガラスでそのままなのです。。照明の交換は鏡を外さないといけないのが惜しいところでしょうか。いやもしかしたら納戸から交換できる仕組みになっていたりして。

 

茶室

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茶室の引き違い戸。紙が白銀比で割り付けられているような気がしなくもありません。坂倉準三の近代美術館の外装のような割付です。取手にも凝りが見られました。彫り込み、同じ紙で裏まで仕上げる。もちろん目地が揃うように。

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規則通り床差しにはせず、床の間と並行に竿縁(素材が竹というところが遊び心)が配置されています。

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躙口は廊下にありました。躙口の鴨居且つ上部の障子の敷居の浮遊感結構好きです。笑

 

リビング等

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リビングから中庭を見る。食堂とのコントラストが効いていますね。タイミングよく奥に人が写っていますね。奥にも空間があることがわかります。何が言いたいかといいますと、五十八はコーリンロウのいうところの実の透明性を意識して設計していたのではないかという推察がたったということです。それは空間構成にも、建具への重層にも表出しているのではないかと思うわけです。

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これが食堂から庭園、玄関側を見た写真です。長押が途中で止まっている(中庭と入り口に挟まれた壁には横架材が意匠としてでてこない)のは大きくライトと異なる部分でしょうか。まさに数寄屋の特徴でしょうね。ライトは長押のような材を廻り縁と同じように回すことで空間が繋がっている表現としたり、天井が高くみえる工夫として使いますが、長押の省略は空間の中に変化を生み出し、視線を泳がせるところに美しさを見出したのでしょうか。

 

実の透明性と話を繋げるならば、空間があるいくつかの層で繋がっていて、それを立面に表すとすると、今の長押の省略がその手法として使われたのではないか、なんてことも思ったりするのですが、はい、たわごとです。無視してください。笑

 

照明デザインも一貫して垂直水平の組み合わせ。そして天井が少し上がったところに設置しています。設置するために上げているのですが、その時に増える表面積分、そこが空調設備になるわけです。。

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リビングから食堂側を見た写真です。ベンチレーションが意匠として扱われています。細かい縦の木の集まりが一つの造形となっています。見ていただきたいのは台所との境界部分の素材感。木仕上げではないのです。壁よりも薄い色を使うことで目立たないようにするためでしょうか。ここでも長押の省略が見て取れます。

 

さて左の黒い部分気になりますねぇ。

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24回塗りの黒漆。笑 こだわりが止まりません笑

見事な鏡面。色まではっきりわかります。こんな風に靴磨けるようになりたいですね。

あ、話がずれました。すいません。

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建具のレイヤー。全て引き込み戸になっており、内側から、障子、ガラス戸、網戸、雨戸です。壁がとことん厚くなります笑 両側から2枚ずつ出てくるので、レール自体8つあることになります。これだけでも見ててわくわくするディテールですが、もっとワクワクすることがありました。

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左はガラス戸、右が障子を閉めた時の写真になります。

1枚目を出した時は2枚目が次に控えているので特に問題ありませんが、引き込み戸の問題点として戸を全て出した時に空気層といいますか、隙間ができてしまうわけです。五十八がどうしていたかというと、2枚目にその隙間を埋めるための枠をつけることにより、他の建具が使用されない時に隙間ができないようにしているのです。建具をここまで重ねるがためのディテール操作だったのではないでしょうか。

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雨戸と網戸です。

網戸も木枠で挟み込むことによってその存在感を消すこととなります。

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この写真はガラス戸を閉めた時のものです。反射して少しわかりますが、実際にみると、ほとんど何もない状態に等しいのです。ただ雨風を防ぐという役割だけではなく、上から大きなガラスをはめ込むことにより透過性を保持させるのです。管理も行き届き、とても綺麗でした。

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ストッパー。戸を止める金物がありました。隣の隣の和室にはなかったですね。。

 

洋室

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洋室ですネ。椅子は五十八のデザイン。高さと背もたれ、素材から休息用の家具であることがわかります。とても心地よかったですよ。

ここに座りながら庭を眺め、ボーとしたり、読書をしたり。

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洋室には造り付けの三面鏡があるので、元々は奥さんの部屋だったのでしょうか。椅子がしまえるようにその部分だけ天板の下は何も棚がありません。

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空間を無駄にしない収納のデザインが見ることができます。収納が多いと、線が混沌とするのですが、天井の廻り縁、鴨居、棚の水平線が整っているためとても緻密で構成原理が五十八の中にはあったのだな、と毎回思うのです。つまりは数字を拠り所とし、線、面の複雑な構成を成し遂げる特徴はデスティルやライトを思わせるところがあります。
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この部屋でとても感銘を受けました、金物です。通常キャビネットの両開き戸は180度開く物が一般的ですが、支点を変えることで270度近く動くことができます。これは現場で考えたのか、家具を設計しているときから考えていたのか。正直この金物になることで有用性が上がるかと言われるとそうでもない気はしますが、埃が角にたまらないのはいいですね。

 

和室

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さて和室です。そろそろ終盤でしょうか。書いている僕も疲れてまいりました。笑

雪見障子、欄間も障子。そして五十八の特徴は欄間の束材の省略でしょうか。水平の意識が伺えます。

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 そして普通ではない線の処理がここにはありました。手前の障子を開けると室内から外を見ることができます。僕の撮った位置はこの部屋の外側へ向けられた軸線の上です。

正面にガラスが一枚ありますよね。普通ならガラス戸は閉めた状態になると、その木枠の垂直線は中央にきます。五十八はそれを嫌ったようなのです。縁側に繋がる空間においてだけではなく、奥まった室内から庭を見ると想定していたからこそなせる処理です。障子の組子の割付とガラスのプロポーションが相似に見えるのは僕の気のせいでしょうか。何か落ち着くと感じる理由は全て数字を伴った形態に現れているのかもしれません。

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こちらは床框。はい。空調設備です笑

奥に見える柄のある漆は2回塗りですが、リビングのものより職人泣かせのようです。

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配線へのこだわり。ここまでしても余計なものは見せない主義です。

 

床の扱い

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床の処理をみてください。庭園に向けられた縁側を思わせる木の仕上げ。これにより左の畳は規格ではなく、特注になっていました。決断の順番がだんだんわかってくるのは楽しいです。ん、何の話でしたっけ笑

そうです、床の仕上げ方でした。もう一つ載せますね。

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これは食堂の床です。全体として長方形をなしていて、縦横で150mmの違いがあるそうです。そこで五十八は正方形でも、長方形でもなく、ひし形でもなく、平行四辺形で仕上げさせます。笑 そうすれば、四辺とも平行四辺形の角が綺麗にぶつかるからです。上の横長写真3枚で伝わるかと思います。

 

ウォークインクローゼット

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 ウォークインクローゼット。ピクチャウィンドウと現代なら呼ばれる窓がありました。ここも引き込み戸。手前のガラスは曇りガラスでした。

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 襖に隠された鏡。ここも全て開いて押入れを利用した後、鏡からとじることのできるように少しだけ散りがでるようになっていました。素晴らしい。。。

 

その他もろもろ

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茶室の外です。船底天井にするため、垂木を受ける軒桁が延長され、手前の軒を深くするための横架材がそこに貫入します。構造と意匠が有機的にできているとは言えないですが、建築家の足跡です。むしろ不合理なデザインで、モダンさを感じます。

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待機場所。位の高い人が奥の石、そこから順に手前の石に足を乗せていくようです。

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飛び石以外にも瓦で作られた動線がありました。余った材を使ったのでしょうか。

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柏の木。枯れた葉は春に新芽が出るまで落葉しないことが特徴です。武士道がここには込められているそうです。

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庭園から外観を望んだ写真です。中庭が明るいですね。むくり屋根があり、反対側にも屋根が落ちていると感じますが、その距離感の錯覚があるような感じがしました。中庭の位置がその明るさにより本来より手前に感じ、虚の透明性としてデザインされているような気がしなくもないわけです。屋根をむくらせたのは重く見せないため、そして面を見せないようにしたかったのではないかと推測します。

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ご好意で障子を閉じていただきました。こうなるともう少し柱の位置とかしっかり確認すればよかったなと思います。。なんせ柱間がかなりの間隔ですから。

 

2時間くらいの滞在で、ガイドの方が親切に色々なことを教えてくださいました。大変感謝しております。ありがとうございました。世田谷区が管理しているとのことで、無料で見学できました。世田谷区のみなさん、ありがとうございます。

 

ガイドさんからありがたき別れのお言葉を頂戴しました。

 

「よく遊べ。何を得るかは自分次第だけどな。」

 

五十八の人生から学ぶことはまだまだたくさんありそうです。

次は吉田茂邸、岸信介邸行きますか。

では。